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「瑠輝? どこ行くんだよ? ホントに遅刻するぞ!」 「悪い! やっぱまだ体調が万全じゃないから今日は遅刻するって、先生に言っといて!」 既にそこへ心がない瑠輝は、背後から心配そうに掛けられた莉宇の言葉に気のない返事をする。 ――逢って、どうだと言うのか。 あれだけの迷惑を煌輝に掛け、お荷物となってしまったオメガの自分には、もう逢ってはくれない可能性だって高いと言うのに。 頭ではそう分かっていたが、それでも瑠輝は今すぐ煌輝に逢いたくて、“秘密の薔薇園”まで衝動的に走った。 目的地へ辿り着くまでに、どれだけの時間が経過したかは分からなかった。だが、全力疾走したお陰でそこまで掛からなかったように思う。 肩で大きく息せき切っていた瑠輝は、蔓薔薇の要塞の前で来て、煌輝も自分と同じ高校生で、平日の昼間は授業があるのではないか、という事実にようやく気がつく。それだけでない。前回、煌輝と正面の門から訪問した際、蔓薔薇の抜け道を補修しなければと言っていた煌輝の言葉も思い出してしまう。 ――どうしよう。抜け道が補修されていたら、こちらからはもう煌輝には逢えない。 衝動的にアルファの施設へ来てしまったが、ここでまた何か問題を起こしてしまったらもう本当に⋯⋯煌輝に嫌われてしまう。 瑠輝の心はキュッと痛み、そこで改めて自身の気持ちの変化にはっとした。 ――僕はもう⋯⋯本当にアルファが、否、煌輝のことが言い訳をわざわざ見つけて逢いたくなるほど、好き――なんだ。 だから嫌われたくなくて。助けてくれたのが煌輝ではないかもしれないが、今すぐ謝罪したいほどに、事実を確認したいほどに、煌輝に逢いたくなっていたのかもしれない。 莉宇に教えてもらった蔓薔薇の抜け道の前へ立つと、瑠輝は噎せ返る薔薇の香りをなるべく嗅がないよう、一度大きく息を吸い、鼻を指で摘み、その中へ飛び込む覚悟を決めた。 ――神様、どうかまだこの道が塞がれてませんように。 特定の信仰心等、日頃持ち合わせていない瑠輝はそう心で強く願うと、蔓薔薇の棘のある要塞へと潜り込む。 「痛っ」 棘は、いつも通り先へ進む瑠輝の剥き出しの肌を容赦なく刺し、そこがまだ補修されていなかったことを知る。 「やった」 小さく感嘆の声を上げた瑠輝は、油断したせいで大きく薔薇の匂いを鼻から吸ってしまう。 薔薇の香りを嗅ぐことで連動する自身の胸の痛みは相変わらずで、薄々分かってはいたがこれは発情期でなくなるものではなく、一生付き合っていくものなのだと改めて瑠輝は察していた。
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