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僕の娘が亡くなって半年が経ち、僕は未だに娘が亡くなったとは信じられない。僕は何か間違いを犯したか、何が悪かったのかいくら考えてもわからなかった……。
僕は克也、緊急救命士の医者で緊急搬送された患者を治療している。仕事が忙しく家族のことを顧みなかった。そのことでいつも妻の絵里と喧嘩になる。緊迫した空気が娘の彩にも伝わったのか僕を慰めにきていた。
僕は娘に何度救われたことか、仕事がいつも忙しい時でも娘の笑顔を見ると途端に僕も笑顔になる。それなのに…なんでこんなことになった!
僕はいつもどおり病院で患者の手術をしていると緊急の呼び出しがあった。
「今手が離せない!」
と僕が言ったら、看護師は娘が事故に遭ったと報告した。僕は愕然とした、まさか娘が事故に遭うなんて…。あんなに慎重だった子が事故に遭うなんて何かの間違いだと思った。
その後、娘は僕の働く病院に搬送されて僕は娘の状態を見たら見るも無残な姿になっていて思わず目を逸らした。今まで何度も事故に遭った患者を手術してきたが娘はまるで違った。
娘の手術は僕ではなく同僚の医師が手術をした。手術は何十時間にも及び、娘と直前まで一緒にいた絵里は待合室で娘の無事を両手を強く握りしめて必死に祈っていた。僕も絵里と同じ思いだった……。
娘の手術が終わり、同僚の医師は娘の脳細胞が機能しておらず"脳死"と判定した。
絵里は泣き叫び、僕も唇をギュッと噛み締めた。脳死判定されることが何を意味するか医師の僕が一番よくわかっていたからだ。同僚の医師は絵里に娘の状態を丁寧に説明した。
同僚の医師はなるべく絵里の方を見て説明していた。それは多分僕に気を遣ってのことだろう。脳死状態になった場合、本人の意志がわからなければ両親が臓器提供するか決める。
もし臓器提供をすると決断すれば心臓が動いているにも関わらず娘の身体を切り裂いて心臓やその他の臓器を取り出す。絵里はその話を聞いてとても受け止めきれずに号泣した。僕はそのことを知っていても尚やはり娘のことだと思うと受け入れる気分にはとてもなれなかった。
僕と絵里がICUの娘の病室に行くと娘はいくつもの管に繋がれていた。まるで娘が生き物ではない冷たいロボットになったかのようだった。勿論事故に遭って娘のような状態になった患者を何人も見てきたが、いざ娘がその状態になったのを見るとまるで違ったものに見えた。
僕の脳は真っ白になった。この先どうしていいかもわからない。僕は医師のはずなのに何もわからなかった…。
家に帰ると僕は絵里に臓器提供をするかどうか話し合った。
「なんでそんな簡単に受け入れられるの、あなたも所詮医師ねっ!」
と絵里は僕に怒鳴り娘の部屋に駆け込んで今まで聞いたこともない声で泣き叫んだ。僕は今日まで遊んでいた娘のおもちゃを眺めていた。すると、今まで彩のことを全く見てこなかったことに気づいた。彩を失って初めて彩が一番大事だったことに気づいたのだ。
僕は自分がいかに愚かがだったのか思い知った。僕は彩の部屋に行き、絵里に今まで仕事ばかりで家族のことを全く考えているなかったことを謝った。僕の謝罪を聞いて絵里は悪いと思ってるならこれから彩が何をしたいのか考えてと僕に話した。
静かになったリビングで僕は絵里と臓器提供をするかどうか話し合い、彩なら傷ついている人に手を差し伸べるはずと絵里は僕に告げる。僕も彩が自分のことより人のことを第一に考える優しい子だと知っていた。
僕と絵里は臓器提供を承諾し、娘の臓器摘出の手術が行われた。娘の臓器はそれぞれ移植され、僕と絵里は彩がどこかの誰かの身体の中で生き続けるのだと考えることで少しは癒しになると思うことにした。
それから3ヶ月が経って、僕は娘の遺影の前で線香を焚いて手を合わせた。そうすると彩の笑顔がどこからか聞こえる気がした。
僕はふと彩の部屋に入った。瞼を閉じた僕はここで彩がはしゃぎ回っている姿を想像した。彩はいつも大事な物はお菓子の箱を宝箱にして大事にしまっていた。その箱をベッドの下にいつも隠していたことに気づいた僕は天国の彩に許可をもらい箱を開ける。箱には便箋が入っていて手紙には僕と絵里のことが書かれていた。
「絵里のようなお母さんになりたい、いつも家族のために仕事に一生懸命なお父さんが大好きです」
と彩の手紙に書かれていて僕は今まで抑えていた哀しみが一気に吹き出してきた。僕は声にならない叫び声をあげて力の限り泣いた……。
手紙が涙で濡れボールペンの字が所々滲んでいた。僕は彩の最期の言葉を読んだ。僕はその言葉を読んで決意をする。
一年後、僕は医師の仕事を辞めて動物の保護団体を設立した。彩の手紙には将来の夢が動物の保護団体を作りたいと書かれていた。僕は動物が大好きな彩に代わって彩の夢を叶えたいと一念発起して個人の保護活動から開始した。絵里も僕と彩の想いに賛同して協力してくれた。
飼い主の都合で捨てられて殺処分になる運命の犬や猫などの動物たちを積極的に保護して新しい飼い主を探す活動も行っている。彩の夢を僕が叶える……。
動物の保護活動、はじめましたーー。
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