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 テーブルの上に置いたグラスを手に取って、ぐいっと傾けた。  芳香を味わうように瞳を閉じると、瞼の裏には龍さんの姿が浮かんでくる。  その光景は、船に乗っている時や、鮮やかな包丁さばきで魚をおろしている時の、見慣れた姿で。グラスを下げると、目の前にはスーツ姿の別人のような龍さんがいる。――不思議だった。 「……柄にもないことばっかりして、やっぱりこういうの、オレには似合わねえかな?」  突然にそう言って、龍さんはバツが悪そうに頬をかいた。  ハッとなった。慌てて首を横に振る。 「そんなことないですよ」 「いいって。似合ってないのは、自分でも解ってんだ」 「龍さん……」 「ただ、オレは翔の為になにかしてやりたかったんだよ。それだけなんだ」 「……」 「翔、オレは――」  何か言いかけて、龍さんは手にしていたグラスをテーブルに置いた。そして僕の方を、もう一度真っ直ぐに見つめてくる。   「オレはな、今までずっと、特定の恋人は作らない主義で生きてきたんだ。オレにはそういうの、必要ないと思ってたから」 「……」 「それが今になって、側にいてこんなに可愛いと思えるような男に出会えて……翔に感謝してるんだ。すごく」 「……」 「なにかしてやりたいんだ。せめて一緒にいられる間は、目一杯」
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