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「そういえば、龍さん。ちょっとお願いがあるんですけど――」
僕がそう言うと、電話の向こうの年上の恋人は
『なんだよ?』
と、キョトンとした声色で呟いた。どうやら、急に神妙な態度になった僕のことを、ちょっと訝しんでいるようだった。
ベッドの上でゴロゴロしながら電話をし始めて、かれこれ15分ほど。何日か前から伝えようと思っていた話題を、そろそろ切り出してもいい頃合だろう。
僕は起き上がり、ベッドの上に正座をした。そして、なんとなく背筋をピンと伸ばしてみる。
「来月って、忙しいですか?」
『来月? どうした?』
「その……できればこっちで会って欲しいんです。出て来れませんか」
『ああ、なんだ。そんなことか』
電話の向こうで、龍さんが少し笑う。
三浦龍司さん――隣県の漁港の漁師で、僕の大切な人。見た目も性格も男臭くて、ワイルドなところが格好いい。でもちょっと目尻の垂れたベビーフェイスなのは、かわいい。その穏やかな笑顔が目に浮かんだ。
『構わねえよ。というか、むしろ気が利かなくてスマン。いつもオレん家に来てもらってばっかじゃ、悪いもんな』
「ありがとうございます。お仕事で忙しいのに、すみません」
そう言いながら、僕は無意識にペコッと頭を下げていた。そのかしこまった雰囲気を感じ取ったのか、龍さんがまた軽く笑う。
『大丈夫だよ。それで、いつがいい?』
「はい。来月、大学の卒業式があるんです。その日に」
『え? 卒業式の日?』
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