183人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
さっきバイクで立ち寄った所とは少しずれているけれど、このホテルも海に近い場所に建っている。
用意されていた部屋は、オーシャンビューのツインルームだった。部屋は広く、テーブルの上には記念日を祝うシャンパンがすでに用意されていた。
『並の値段の部屋だ』と龍さんは言っていたけれど、それが本当なのかどうかは分からない。でも、こんなホテルのスイートルームだったら、きっと一泊しただけで顎が外れるような料金を取られるに違いない……そう思えるくらい、この部屋も充分豪華だった。
二つ並んだベッドの一つに、とりあえず手荷物を置いて、窓辺へ駆け寄る。
「すごっ。眺めいい……」
「そうだな。思ってたよりいい部屋で良かったわ」
窓からは、海がよく見えた。
プカプカと浮かぶ貨物船の向こう側に、夕日が落ちるところだった。
「ラブホじゃ、男二人で行くのに入室断られたり、多めに料金取られたりする場所もあって、いいホテル探すの面倒くさいだろ」
「はい……そうらしいですね」
「いっそフツーのシティホテルとかビジネスホテルのツインルーム借りる方が、まず性別の組み合わせで断られるなんてことも無いし、楽でいいんだよな。まあ、部屋を無駄に汚したり、雑に扱うようなことはしないのが前提だけど」
「ほー……」
「そもそもマナーを守るなんてのは、人として当たり前のことで、男女関係ない話だけどな」
なるほど。ここはどう考えてもフツーのシティホテルってレベルじゃない……というのはさておき、為になる話だ。僕は神妙な顔をして何度も頷いた。
龍さんが僕の肩をそっと抱いて、微笑む。
「そういや、昼飯ちゃんと食べてなかったよな? そろそろディナーの始まる時間だし、腹減ってるならすぐ夕食でもいいぞ。それとも、少し後にするか?」
「えっと……じゃあ後で」
「そうか。そうだな、もう少し夜になってからの方が、夜景が綺麗だろうし」
――えーっ。二人揃ってスーツ着て、夜景の見えるレストランでディナーまで楽しんじゃう予定なのか……。
思わず手のひらで胸元を押さえた。
なんだか、僕は今すごい勢いで大人の階段を上ってる感じがする。ワクワクを通り越して、心臓がバクバクしていた。
最初のコメントを投稿しよう!