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部屋に用意されていたシャンパンは、よく冷えていて美味しい。僕たちは窓辺に置かれた椅子に腰掛け、静かにグラスを傾けた。
少々歩き疲れたようだ。柔らかいクッションに重く沈み込み、リラックスする。
ぽつりぽつりと他愛もない話を続けていると、龍さんはふと僕の顔を見つめ、
「初めて会った時より、大人になったみたいだ」
と感慨深そうに言った。
その表情がすごく優しくて、ドキドキして、思わず僕は視線を彷徨わせてしまう。
「そうでしょうか……」
小さく呟いて、ぺこりと会釈した。
そういえば、龍さんと出会った時、二十歳だと自己紹介したら「高校生くらいかと思った」と言われたんだっけ。龍さんはクサイお世辞を言うような人じゃないから、大人になったというのは、たぶん本当の感想なんだろう。
もう充分大人の年齢なんだから、当然といえば当然のことだけど、素直に嬉しい。くすぐったいような、照れくさいような気持ちで、少し俯く。
龍さんの手にしたグラスの中で、気泡が真珠のネックレスみたいに連なって、弾けている。その玉の行方を、無意味に目で追う。
……慣れない場所にいるせいか、なんだか緊張しているみたいだ。ホテルに行きたいって最初に言い出したのは、僕なのに。
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