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それは、少しだけ引っかかるような言い方だった。首を傾け、僕はぎこちなく微笑む。
「なんか、『あんまり長い間は一緒にいられない』って感じの言い方しますね?」
「……そういう訳じゃねえけどさ……」
「僕、ずっと龍さんと一緒にいるつもりですよ」
僕が強めの口調で言い切ると、目の前にある瞳は、また優しげに弧を描いた。
「そうだな。オレもそのつもりだよ。でも、人生ってのはお前が思ってるより、ずっと短いんだ」
そう言って、龍さんはそっと窓の外に視線を送る。遠くを見つめるその顔はどこまでも穏やかで、僕の心にはなぜだか悔しさがこみ上げていた。
――龍さんは、ずっと大人なんだ。僕よりも。
龍さんは僕のまだ知らない人生の悲しみを知っている。決して縮めることの出来ない、年月の差。その中で龍さんが味わってきたであろう切なさを、もっと知りたいと思った。
僕は立ち上がり身を乗り出すと、黙って龍さんにキスをした。
突然のキスへの戸惑いを感じたのは、一瞬だった。
龍さんは僕のネクタイを掴んで身体を引き寄せ、噛み付くように深く口付けを返してくる。応えるように舌を差し出し、ゆっくりと体温を分かち合った。
「……シャワー浴びてこいよ。いや、一緒に行くか?」
ずいぶん長く唇を重ねていた。ようやく唇を離すと、龍さんはかすれた声で僕にささやき、微笑んだ。
黙ってコクンと頷く。
濡れた唇を指先で拭うと、僕も自然と笑みがこぼれていた。
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