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「……海の匂いがする。龍さんの、匂い」  思いがけず声が上擦ってしまって、カッと頬が熱くなった。  龍さんはキョトンとした表情で、自分の二の腕を鼻に近づけ、首を傾げる。 「そうか? ちゃんと風呂入ってんだけどな」 「じゃあきっと、僕にだけわかる匂いなんですね」  もしそうなら、嬉しい。こんなにも魅力的な龍さんの香りを、僕だけが独占しているなんて。  逞しい首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。龍さんも微笑んでいるのが、気配で分かった。  首筋に顔を(うず)め合って、お互いの身体を愛撫する。手のひらで、唇で。龍さんの匂いや体温を感じながら、僕は安堵のため息をついていた。  時々感じるところを指がかすめて、身体が跳ねる。龍さんはそれに気付いても、がつがつと激しく攻めたりはしない。  僕に触れる時はいつも丁寧で、じれったいくらいに優しい。そういうところは、出会った頃からすごく好きだった。 「僕、こういうとこでするの、初めてなんです」 「そうなのか?」 「うん。だって、本当はラブホテルだって行ったこと無いし……」 「じゃあ、どこなんだ。初体験の場所は」 「んっ、場所は……立体駐車場、というか、車の中ですかね」 「へえ……」
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