183人が本棚に入れています
本棚に追加
「……海の匂いがする。龍さんの、匂い」
思いがけず声が上擦ってしまって、カッと頬が熱くなった。
龍さんはキョトンとした表情で、自分の二の腕を鼻に近づけ、首を傾げる。
「そうか? ちゃんと風呂入ってんだけどな」
「じゃあきっと、僕にだけわかる匂いなんですね」
もしそうなら、嬉しい。こんなにも魅力的な龍さんの香りを、僕だけが独占しているなんて。
逞しい首に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。龍さんも微笑んでいるのが、気配で分かった。
首筋に顔を埋め合って、お互いの身体を愛撫する。手のひらで、唇で。龍さんの匂いや体温を感じながら、僕は安堵のため息をついていた。
時々感じるところを指がかすめて、身体が跳ねる。龍さんはそれに気付いても、がつがつと激しく攻めたりはしない。
僕に触れる時はいつも丁寧で、じれったいくらいに優しい。そういうところは、出会った頃からすごく好きだった。
「僕、こういうとこでするの、初めてなんです」
「そうなのか?」
「うん。だって、本当はラブホテルだって行ったこと無いし……」
「じゃあ、どこなんだ。初体験の場所は」
「んっ、場所は……立体駐車場、というか、車の中ですかね」
「へえ……」
最初のコメントを投稿しよう!