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2-2☑
私は母の放った言葉にも悲しかった。
私が弟と父親から差別を受けていることを表だって
つまびらかにされてしまったから。
ここまでつまびらかにされてしまったら、もはや自分で
今まで必死で『自分の気のせい』と目を背けていた現実を
見ないわけにはいかなくなったじゃないか。
涙が零れた。
泣いていたら父親の反撃の言葉が聞こえてきた。
いつもは黙って引き下がるだけの母親が今夜は一歩も
引かなかったことから、父親の言い方には少しキョドッてる
ような節が見受けられた。
母の正論に向かう正当な…全うな言葉などあろうはずも
なく、父親が口にできたのはくだらない陳腐な…だがもっとも
夫婦にとって卑怯な言葉だった。
「じゃあ、離婚するか!」
この呪文で私の母親の口を封じ込めたのだ。
この時高校生だったわたしは心から、何があっても
自分で自分を支えることのできる仕事を得るのだと決心した。
その日を堺に私の心にも母の心にもひとつの大きな杭が
大きく深く打ち込まれのだと思う。
私と母にできる唯一のこと、それは
決して父親に自分達の大切な心…
大事な気持ち…
それらを向けることは一切しない、ということだった。
それは心からのやさしさであったり…気遣いであったり…
言ってみれば、真心というヤツだ。
目には見えないものだけど、とても大事なものだ。
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