『 醒めない夢』  

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29. ~深山康文と果歩の結婚生活  (26)  夫は馬耳東風とばかりに私や義両親の反対意見を全く聞き入れず、 結局自分からの持ち出しはゼロで私の口座にある200万円を強引な形で 元手にし、コンビニ経営に乗り出した。  お義父さんのいうコトさえ聞かないのだ、私の意見など 言わずもがなのこと。  収入の全くない我が家。  今後の生活費である命綱をあっさりと別の費用に投げ出せる神経は、 どう考えても私には理解し難いものだった。  恥を忍んで母にお願いして生活費を貸して貰うことにした。  スタートからこんな不安な先の見えない状況に、幼子を抱え 私の心は少しずつ疲弊していった。  そんな船出だったが最初に雇った(来てくれた)女性は 当たりだった。  徒歩10分くらいの所に住んでいる既婚女性45才で 体格が良くて力持ち、その上気配りもできるし人として あるべき本質の備わった女性で、盗難の心配もしなくてよかった。  夫と斉藤さん、ふたり二人三脚で大きなトラブルもなく 店は順調に進んでいった。  まじめな女性(ひと)が来てくれて本当に良かった。  斉藤さんなら店番をひとりでも任せられるよねっていうくらい、 私は彼女の人間性に信頼を寄せていたので、併せて夫のことも心配せずに 娘のことだけに集中して生活することが出来たのは、幸いなことだった。  それなのに店が軌道に乗り始めて5ヶ月過ぎた頃その既婚女性の斉藤さんが年老いた母親の入院でどうしても店に来られない時間ができてしまい、 補充の人を雇い入れなければならなくなってしまった。  だけど辞めるわけではないし、またお母さんが退院されれば 元のように来てもらえる可能性はあるのだし……と自分に言い聞かせ、 必要以上に心配するのは止めようと思うことにした。
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