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36.
~深山康文と果歩の結婚生活 (33)
私は……わたしが待ち望んでいた光景を見た。
待ってたよ、こういうのを。
ずっとずっと待ってた。
私が見た店の中には、高校生なのか……はたまた大学生なのか、
定かではないが男子学生がポツンとひとり居た。
線の細いイメージを受けたけれど、そこは男の子
細マッチョみたいで、力仕事にも問題なさそう。
オーナーもいないのに一生懸命品揃えしている。
真面目そうな男子でよかった。
私は感心して彼の働く様子をしばらく眺めていた。
しかし、大した売り上げという成果を出せていないのにも
関わらず、もうひとりバイトを入れていたとは。
あの仲間友紀と仲良しするにはどうしても店番を
する人間が必要だからね。
ほんと、間違ってるよね。
仕事がメインじゃなくて女とイチャイチャする為に
人を雇うなんて。
私はこの時はっきりと、この店はそう遠くない日に
借金抱えて潰れるなと、思った。
見ているとそのバイトの男子は、あらかた棚に品物を
陳列し終わると、カウンターの中に入っていった。
時折彼はカウンターの奥にある倉庫兼用の部屋を
チララチと見てはため息を吐いている。
ふたりが入ってどれだけ経過しているのか分からない
けれど、まだ出てこないのかよぉ……っていうくらいには
長い時間が過ぎているのだろう。
漠然とは考えていたけれど、この時はっきりと自分の
取るべき行動を知った。
私は店内に入って行った。
「いらっしゃいませ!」
「初めてですね、こんにちは。
私、こちらのオーナーの妻です。
忘れもの届けに来たんだけど主人奥ですか?」
「あっ、はい」
そう言いながら男子はカウンターの奥に視線を
投げ掛けた。
その口元は何かモノ言いたげだった。
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