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 初めは何の音かわからなかった。  目を覚ますと、隣で陸くんが座っている。くすん、くすんと泣いているのだった。  おねしょをしたのかと慌てて布団を触ってみる。寝汗はかいたようだが、粗相はしていない。 「どうしたの? トイレ?」  陸くんは首を横に振って、うなだれる。 「どこか痛い? お腹?」  陸くんの顔を下から覗き込む。 「……ちがう……おうち……帰りたい」  ああそうか。やはり家が恋しくなったか。  時計の針は11時を指している。連れて行くにも迎えに来てもらうにも、ずい分遅い。  真治を起こす。「んん?」と言うが、気付いていて、様子をうかがっていたのだ。 「真ちゃん、どうする?」  真治は身を起こす。あぐらをかいて、そこに陸くんをすとんと座らせる。 「陸、お前は自分で泊まるって決めたんやぞ。 男やったら、もう泣くな」  真治の声は日中のふざけた声とは打って変わって柔らかい。  陸くんは唇をかみしめる。 「今から帰るって言ったって、もう夜中や。さっさと寝ろ。目が覚めたら、朝になってる」  真治は小さな頭をごしごしっと撫でる。陸くんはそれ以上、何も言わず横になった。私はその肩がしゃくりあげなくなるまで、布団の上から手を添えていた。
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