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みのりさんたちの車は、角を曲がる前にクラクションを鳴らした。私たちはそれまで手を振っていた。真治は手を下すと一瞬しかめっ面をした。へらっと笑って歩き出す。
「やっと帰って楽になったな。ペース乱されるし、ビービー泣くし」
「嘘つき」
「え?」
「そんな気持ち、あったとしても、ほんの何パーセントかだよね」
昨日からの真治の顔ったらなかった。大口あけて笑ったり、いたずらっ子のような顔で追いかけたり。今まで、あんなにはしゃいでいる姿を見たことが無い。
「真ちゃん、楽しかったでしょ」
「あれは、陸が来たからサービスって言うか何て言うか……」
「自分の気持ちに正直になろ。私、決めた。真ちゃんをパパにする。私もママになる」
真治は目を瞠って私を見る。
「また治療に行くってことか。それならもう無理せんとこって話したやろ」
「それも本心でないよね。私のこと思って言ってくれてるのはわかる。でも……やってみたい。だって、真ちゃんのあんな笑顔、もう1回見たいよ。毎日、見たいよ」
真治は空を見上げた。雲が走っている。
「俺が親になるには、何かが足りなくて、試されてるのかもしれんと思う時がある。そやな。諦めたらあかんな。陸といてわかった。俺、やっぱり子ども欲しいわ」
「うん」
それからもコウノトリは頭上を通り過ぎるばかりだった。
けれど、もう周りの嬲るような風には振り回されなくなっていた。
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