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家の山桃は、妊娠がわかった時に植えた。真治は記念になることをしたかったようだ。
「普通、生まれた時に植えるんでないの?」
「わからんかなあ、俺の今の喜びを目に見えるものにしたいっていうのが」
そう言われて、納得した。
「何で山桃なの? 言い伝えでもあるの?」
「いや、パンフレットの写真で見た時、赤い実がうまそうやなあと思って」
あまり根拠は無いようだった。
植えた次の年に、待ちに待ったわが子が生まれた。女の子で、悠花と名付けた。
真治は毎日クリニックにやってきた。終始目尻を下げて、穴が開くほど眺めている。
確かに、見飽きなかった。あくびをするのを見ているだけで、うっとりした。ふにゃあと顔を歪めて泣き出すと、おむつか何かと慌てた。
「わが子は、目に入れても痛くないって言うけど、本当やろうな」
冗談だろうと笑っていると、真治は本当に、悠花の小指を目に入れている。
「いてっ。痛いぞ」
「当たり前やん」
その小指は、人形のように小さいのに、とても精巧にできている。こんな小さな爪をどうやって切ったらいいのだろうと思った。
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