15人が本棚に入れています
本棚に追加
1
結婚してから金沢に住んでいる。
夫の真治はシステムエンジニアをしていて、本社は福井にある。私は結婚を機に退職して、派遣会社に登録した。
真治がいつ転勤になるかわからないし、子どもができるかもしれないと考えてそうしたのに、一向に妊娠しない。
新婚だし2人の生活を楽しめばいいよねと楽観していた。けれど1年を過ぎる頃には、何か原因があるのではと真剣に考え始めた。
真治は月に1度、土曜日に本社で会議がある。その時には、2人で夫の実家に泊まる。
新米の嫁としては、まだ緊張する。それでも家事は言われるままこなせばいい。
頭が痛いのは「かや子さん、赤ちゃんはまだ?」と聞かれることだった。帰る度に、だんだんそれは露骨になってきた。
「今月は真ちゃんだけ福井に帰って」
「何でや。そんなわけにいかんやろ」
微妙なことなのに、明け透けに話をされるのが嫌だ。
プレッシャーも感じる。
「だって、また赤ちゃんはって言われるし」
「わかった。俺が言ってやる」
真治はストレートに言い過ぎる。波風は立てて欲しくない。
「あんまりきつく言わんといて。孫を待ってるだけなんやから」
「わかってるって」
どう言ってくれたのかわからないが、それから面と向かって言われることは無くなった。
ただ、心なしか風当たりが強くなった気がする。それは自分の本音を通したことで、相手が気を悪くしているのではないかと思う疑心暗鬼か。
はたまた本当に、人の気持ちを無下にしてと思われていたのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!