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自分の浅はかさを悔いるのに、そう時間はかからなかった。
夜の街は雨に濡れていた。
私は、大通りに面した小さな喫茶店に駆け込んだ。
本来なら、濡れて冷たくなった体を暖めるために、何か温かい飲み物を注文するところだが、今は出来ない。何しろ、全財産がたったの三十円なのだから。
数週間前のことだ。ちょっとした事で父親に説教をされ、カッとなって家出をした。家を出る際に携帯電話と財布をさっと手に取った。
自分でもこんなに長い間家出をするつもりはなかったから万全の状態で家出をしなかったのだ。
財布の中身も淋しくなってきた頃、そろそろ両親も心配しているだろうと思いながら帰宅した。しかし、両親の考えは私のそれとは違った。私は受け入れてもらえなかった。
元々親子関係が上手くいっていなかった上に、私の軽はずみな行動で、その関係はより一層修復が困難になった。
友人の家を訪ねたりもしたが、それも長くは続かなかった。
「ずっといていいからね!」
とは言ってくれるものの、内心迷惑だろう。ただ飯を食らって、何をするわけでもなく他人が家にいるのだ。友人は良くとも、その両親は快く思わないだろう。
行き場を失った私は、昼間はとりあえず高校へ通い、学校が閉まるギリギリまで教室に居座り、学校閉まると、どこへ行くわけでもなく街をウロウロするという生活を送っていた。
そして今日も、学校が終わり、街を徘徊していた時に雨に降られたというわけだ。
「どうぞ。」
左からそっと差し出されたホットココアに驚いて振り向くと、この喫茶店の店員であろう男性が立っていた。少女漫画に出てくるような綺麗な顔立ちの人だった。
「あの…私、何も頼んでません。お金ないですけど雨があがるまで雨宿りさせてもらっちゃダメですか?」
店員は片方の口の端をあげて笑うと
「当分やまないですよ、この雨。ココアは俺からのサービスなんで、どうぞ。」
と、ホットココアを差し、私の隣に腰掛けた。
「あ…どうも。」
一口啜ると、程よく甘いココアが口内を満たした。優しい味がした。久しぶりの暖かさに自然と涙が出ていた。
あの時素直に謝っていればこんなことにはならなかった。私はこれからどうすればいいのか。この雨がやめば、ここも出ていかなければいけない。私は、ほんの一瞬の衝動で今までの安定した暮らしを失おうとしているのだ。
「よかったら…ここで働く?」
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