誰のせいかと言われたら。 〜side凛

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「…上手に描こうとしなくていいんだよ。凛の思うように描いてごらん。」 先生はいつも物静かで、穏やかで、掴みどころがないような不思議な雰囲気の人だった。 初めて描く油絵には悪戦苦闘したけど、先生はいつも 「僕は凛の描く絵が好きだよ。」 と言って笑ってくれた。 それが嬉しくて、くすぐったくて、僕は昼休みも放課後も毎日美術室へ通うようになった。 描き方を知らない僕に、こうやって描いてみたらいいんだよ、と言いながら、後ろから覗きこむみたいにして先生が一緒に筆を握る。 そんな時はうるさすぎる胸の音が先生に聞こえていないかいつも心配だった。 そんなある日。 僕が絵を描くところを見ていた先生が、いつものように後ろから、僕が絵筆を握る手にその手を重ねた。 とっくに先生への気持ちがただごとではないことを自覚している僕は、それだけで身体全部が熱くなっていく。 先生に触れられるのはいつも特別な感覚だった。 いつもは少し一緒に絵を描いたら離れていく手が、その日は離れていかなくて、絵筆を握る僕の指に先生の指が絡むみたいに手をきゅっ、と握られた。 そのまま寄せられた先生の身体は、殆ど僕を後ろから抱き締めるみたいだった。 「せ、…先生?」 戸惑いと緊張に思わず声が固くなる。 「…凛、耳まで赤いよ。」 先生が低い声で耳元で囁くみたいに言うから、それだけで身体が震えた。 「…っ、」 「凛は可愛いね。」 先生の顔が前を向く僕の顔のすぐ近くにあって。 そのまま、つ…、と柔らかくて温かい感触が頬に触れた。 それが、先生の唇だということに気づいた時にはもうどうしようもなくて。 思わず先生の方を振り返った僕の唇を、先生の唇が塞いだ。 初めてのキスは、僕の胸を甘く苦しく疼かせた。 すぐに僕は、先生との関係に溺れるみたいに嵌まっていった。
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