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あれから。
父さんと理沙さん(母)が驚くくらい、僕は家の中で話すようになった。
「大和、靴下脱ぎっぱなし。」
「え〜…、無理…。今日ほんと部活疲れたんだって…。コーチの機嫌悪くてずっと走らされてさぁ…。彼女に振られたのなんか俺らに関係ないっつーの…。」
「ダメ。ついでにお風呂も空いたから入ってきて。」
「…えぇ〜…。もうちょいゴロゴロしたい〜…。凛もちょっとは頑張った俺を優しく癒して〜…。」
「大和、汗くさい。やだ。」
「…う…。…すぐ風呂行ってきます…。」
リビングでのそんな僕らのやり取りを見て父さんと理沙さんが笑う。
「凛くんがいればあたしも大和も安心だわー。」
それは、初めて顔合わせをしたあの日に父さんが大和に言っていたことだった。同じように僕にも言ってもらえたことがなんだか凄くくすぐったくて、嬉しかった。
さらに、理沙さんのご飯のおかげで、色々なものが少しずつ食べられるようになった。
美味しいご飯はそれだけで気持ちが幸せになるんだって知った。
家族みんなでご飯を外に食べに行くことも増えて、大人二人がそのままお酒を飲みに行くからと、僕と大和だけで先に帰ることもあった。
そんな時は、いつも大和にくっつけるから、密かにそうなるのをいつも楽しみにしていた。
だって、こんなにいつも近くにいるのに、親たちがいればもちろん何かできるはずもないわけで。
大和の匂いがする、大和の部屋で、大和の身体の中にすっぽり収まるみたいに後ろから抱き締められてる。
大和の香りと体温を感じられるその場所は、世界で一番安心する僕だけの特等席だ。
いつもそんな風にくっつき合って、僕たちは色々話した。
まぁ、たまに大和が説教くさいこと言ってくるのはちょっとうるさいな、って思ってるけど。
「凛、クラスの友達できた?」
「…別に。…いらないし。大和がいるし。」
今日もまた触れられたくない話題を出してくる大和に、僕は小さく呟くみたいに返してそっぽを向く。
「凛。」
あー…。
また大和の説教モードが始まる予感に僕は俯く。
「自分から挨拶してる?」
「…しない。皆からもされないし。」
もう、そんな話とかいいから、もっともっと大和と触れ合いたいのに。
でもこの謎の説教モードに入った大和には、僕がどれだけ甘えてみても全く通用しないのだ。
「凛、明日は自分からおはよって挨拶してみな。そしたら絶対みんなの印象変わるから。お前ちょっと迫力ある美人だからみんな緊張してるだけだって。」
「何それ意味わかんない。いいよ、僕は大和がいたら友達なんかいらない。」
「だからー、そういうのはダメ。凛にもちゃんと凛の世界があるんだから。その世界に、俺だけいればいいなんてことはないんだから。」
「…。 」
「な?」
そう言って、子どもにするみたいに大和は優しく笑いながら僕を覗きこんだ。
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