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夕飯が出来たことを叫ぶと、啓太はいつもの如く無言で二階から下りてくる。
仏頂面の息子の前に座り、二人での食事が始まった。
いただきます、と言わなくなったのは、いつからだったか。
高校での様子を尋ねても生返事ばかりで、しつこく食い下がれば自室へ逃げていく。
嫌われてはいない、はず。
視線も合わせずに、自分の都合をいきなり伝えてくるけれど。
「明日は帰りが遅いから」
「何時くらい?」
「八時過ぎかな。晩飯は食べてくる」
「どこで? 学校じゃないでしょ」
「ツレの家に寄ってくるんだよ」
高二の春、つまりは半年くらい前から、随分と乱暴な口を利くようになった。
男の子なんてこんなものかもしれないが、最初は慣れなくて一々驚いたものだ。
出会った頃のあの人に似ていると気づいてからは、もう好きにさせている。
食べ終わった息子は、さっさと皿をシンクへ返し、階段を駆け上がっていった。
その大きな足音を聞きつつ、わずかな不安が頭をもたげる。
部活もしていないのに、夜が遅いことがここしばらく増えていた。
来年は啓太も受験生であり、そろそろ進路についても本人の意向を問い質すべきだ。
母独り、保険の外交で貯めたお金で、進学は可能だと伝えてある。
但し、高い私立大学は無理だとも。
成績は上の下くらい、発破をかけるほどではない。学業優良と言ってよいだろう。
だからと言って、夜遊びに耽り出されても困る。どんな友人と付き合っているのか、聞いても答えてはくれないんだろうなあ。
ふうっと一息吐き、洗い物の片付けに取り掛かる。
私の疑問に答えてくれたのは、意外な人物だった。
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