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夏休みは友人とも遊んだ。
一人でふらーっと買い物にも出掛けた。
部活も暑くて辛かったけど、上達していくのが自分でも感じられて嬉しかった。
今年は比較的充実した夏休みを送れたと思う。
でも……彼と花火をしている今、この瞬間が夏休みの中でも1番幸せな一時のように感じられる。
「花火ってやっぱり綺麗だよな〜。これをせずに夏を終われるかっての。」
「ね。ホントに綺麗…」
ここは田舎だから、ろくに街灯もなくて夜になれば辺りは真っ暗闇に包まれる。
暗闇の中で、私達の花火だけが明かりを灯す。
2人で花火をするのは昔からのことで、いつも約束なんてしなくてもきまってこうして花火をする。
彼は幼馴染で、昔からいつも一緒にいた。まるで兄弟のような存在の彼と過ごす時間はとても心地が良いものだった。
そう、、、
私達は幼馴染でそれ以上でもそれ以下でもない。
彼の目に映る私はきっとずっと幼馴染でそれが変わることはないんだろう。
彼に恋人がいた時期もあった。
それでも一緒にいられた。
それはきっと、幼馴染だから…
私の“好き”と彼の“好き”は違う。
この気持ちを伝えたらきっと困らせてしまう。
だから、まだ告わなくて良い。
ずっと告わないで…気持ちを隠していれば、一緒にいられる。幼馴染として…
でも、それで良いのかな。
いつまでも嘘をついたまま、彼の隣にいて…
「ん?さっきからどーした?」
「ううん。考えごと。」
「そっか。何かあるなら言えよ。」
ポンポンと触られた頭がほのかに熱くなるのが分かる。
君のそのはにかんだ笑顔が好きで…
いつも私を心配してくれる君が好きで、そんな君に頭をポンポンとされるのが好きで…
君の…君の…
数え切れない程の好きが溢れだす…
ただ一緒にいれるだけで嬉しくて……たとえそれが幼馴染だからだとしても……
私の気持ちを彼に告ったら、きっとこの関係は壊れてしまう…
壊れない可能性もないわけじゃないけど…
きっと彼は優しいから、頼んだら一緒にいてくれる。
でも、そんなの…そんなの…
「ほんとにどーした?体調悪いのか?」
「本当に大丈夫だから。」
「そっか、お前はすぐ無理するから心配だよ。」
「ごめんなさい。」
「なんで謝るんだよー。お前の頑張り屋さんな所俺は好きだよ。」
彼に“好き”と言われるのは嬉しくて…悲しくて…
私は、そんなに軽く“好き”と口に出来ない。
私の好きは……きっと彼を困らせる。
いつだって怖くて、向き合うことをしようとしないで、逃げて逃げて逃げてきた。
いっそのこと、この気持ちが消えてしまえば良いと何度も思った。
そしたら、ずっとずっと仲良しの幼馴染でいられる。
でも、私の想いとは裏腹に私の“好き”はどんどん膨らんで、止まらなくなって……気を抜いたら好きって口に出してしまいそうになる。
「……す…好き…」
聞こえない程度に言ってみた。
これは……心臓がもたない。
好きな人に好きって言うのはこんなにも勇気がいるものなんだ。
「なんか言ったか?」
こんっの、、、地獄耳。
「別に。」
「あー、これで終わりかぁー。いつも線香花火を持つと終わっちゃうなーって悲しくなるよ。な!」
話が急に変わった。
いつもの彼の癖。
話がコロコロと変わっていく。
でも、おかげで話に詰まることがない。
「あっ、もう線香花火か……。今年もあっという間だったね。そんなに悲しいならこの謎のこだわり捨てたら?」
「えー、これはやめないよー。最後は1人1本の線香花火でおしまい!なんかさ、その特別感が良くね?」
「始まった。このやり取り毎年してるね。」
「な!」
彼が突然犬みたいに首を振り回し始めた。
クスッと、思わず笑いが溢れる。
「なになに?怖いんだけど。」
「だって、今日ずーっとお前暗いし。なのに、なんでもないってフリしてくるからどーしたら良いか分からないし……。だから、元気を出してもらおうとして、、、ワンッ!」
「ごめんって。ホントに。」
「さっきからごめんごめんって俺は謝られたいわけじゃないんだけど。」
「ありがとう…?」
「ワンッワンッ!」
「うわぁっ、首もげるよ!」
「やっと…笑ったワン!」
「分かったから!やめなさい!ハウス!」
「ワンッ!」
「あー、犬のマネをやめなさい!」
「はい!」
彼はピシッと立ち、敬礼をしてみせた。
「警察か。」
「ナイスツッコミ〜。でも、まだまだだな。」
「別にツッコミの腕は磨きませんよーだ。」
「なぬ!…ってそれよりそろそろ線香花火やろーぜ。」
「うん…」
終わってしまう。
市販の線香花火なんて、多分40秒程しか持たない…
「せーのっで、火をつけるんだよ。どっちの方が火が落ちるのが遅いかで勝負だからな!」
「毎年やってるから知ってるって。去年は不覚にも負けたけど、今年は勝つからね!」
「せーのっ!」
息を揃えて、言った後に火を素早くつける。
小さいながらに一生懸命に燃え上がる線香花火はとても美しいと感じる。
「よしっ!」
「おっ、もう勝った気になったのか!」
なんか吹っ切れた。
もう大丈夫。
ずるずると先延ばしにしても駄目だ。
逃げないで、向き合おう。
自分の気持ちに素直になろう。
この線香花火のように、弱いながらも強い人になれるように。
ずっと立ち止まってた。
色んなことを言い訳にして、これ以上は進めない、進めないって…
ホントは進まなかったんだ…
いや、進みたくなかった…
いつだって壊れることを恐れて、今まで通りを続けたくて、目の前の問題を見てみぬふりしてた。
だけど、もういいや。
大丈夫。
今日からまた歩きだそう。
ゆっくりでも、格好悪くても良いから、一歩一歩前に進もう。
きっといつか光が見えてくるから。
私だけの線香花火が見えてくるから。
だから、終わりにしよう……
「好きだよ…」
言葉を発した瞬間……“私達”の持っていた線香花火の火が同時に落ちた。
同時に落ちたのは今年が最初で最後だった。
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