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 夏休みを利用して生家に帰省する親戚は多い。でも、父の仕事の関係で、僕の一家だけは毎年一番賑わうはずの盆をはずしてここを訪問することが多かった。  無論、今年も例外ではない。  だから今回も、このだだっ広い平屋建てには、僕と兄以外子供と呼べる存在はいなかった。  去年までの僕なら、きっと口をへの字にして縁側に座っていただろう。  ただ座っているのに飽きたら縁側を出たところにある沓脱石(くつぬぎいし)に腰掛けて、ベッコウバチが地面に巣穴を掘る作業をぼんやり眺める。  巣穴を掘り終えた彼らが飛び立ったあと、巣の出入り口に小石を置いて意地悪するのは、そんなときのストレス解消法の一つだった。  しばらくして青虫などを抱えて帰ってきた彼らが、大事な獲物を地面に置き去りにしていそいそと石を退かしている姿を観察するのは、何だか爽快だったから。  そうそう。そのとき、ついでにハチの目を盗んで獲物をちょっぴり移動してみる、なんていうのもお勧めだ。  入り口から邪魔な小石を取り払ったハチが、置いておいたはずの虫――麻酔済なのに!――を探してキョロキョロと辺りを見回す様はなかなかに面白い。  でもさすがの僕も、ハチが獲物を見つけられないほど遠くに隠したり、という非道なことはしなかった。  彼らが苦労して狩りをしてきたことは容易に推察出来たし、その獲物が彼らの赤ちゃんのための大事な食糧であることも知っていたから。  さて、このベッコウバチ、僕の家の周りでは余り見かけなかったので、今思えば案外こういう悪戯が出来るのも田舎ならではだったのかも、という気がする。
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