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「垣根の外に出ちゃいけんよ? 何じゃったらお兄ちゃん、待ってみたら?」
心配顔で母がそう言うが、冗談じゃない。
兄にだけは、アリジゴクの居場所を教えたくはなかった。
「へーき! 蔵に行くだけじゃけぇ」
言いながら、僕は夏の日差しが照りつける庭へと駆け出した。
屋根があってほとんど雨が吹き込まず、砂が常に乾燥しているところ。
アリジゴクは獲物を狩る罠の性質上、そういうところを好む生き物だ。
アリジゴクの、サラサラとした砂でこしらえたすり鉢状の巣に落ちた虫。それが彼らの食料だ。ただでさえ、肌理細やかな砂は崩れやすく、虫たちは足を取られる格好になる。
その振動を察知したアリジゴクは、頭部のバネを使って留めとばかりに獲物に砂を投げつけるのだ。この様は、とてもリズミカルで何度見ても飽きがこない。
僕が幼心に彼らに惹かれたのは、虫自体の形状もさることながら、そういう策略に長けたところに感動したからだ。
蔵に隣接した壊れかけの物置は、アリジゴクたちにとって快適な居住エリアらしい。
祖父のいい加減な細工は前面オープンで壁なしだったし、そのくせ天には雨をしのぐ屋根がついていたからだ。
期待に違わず、今年もたくさんのアリジゴクの巣を見つけることが出来た。
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