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「スゲェ!」
思わず感嘆の声を上げてしゃがみ込むと、僕はそっとすり鉢の中へ指を差し入れる。
そぉっと、そぉっと……。
心の中で逸る気持ちを抑えるように唱えながら、ゆっくりと指を動かして砂をかき出す。
かき出された砂に混じってモジモジと動くまぁるいもの。それがお目当てのアリジゴクだ。
持参してきた瓶に、周辺の砂を五センチぐらいの深さになるよう詰めると、僕はアリジゴクを潰さないようそっとつまみ上げて手のひらに載せた。
突然の仕打ちに驚き、死んだふりをしたアリジゴクが、恐る恐る後ろ向きに移動を開始すると、手のひらがくすぐったくて思わず笑いがこみ上げる。
その感触をしばし楽しんでいた僕に、突然後ろから声がかけられた。
「剛、何、一人で笑うとるん?」
ビクッとして振り返ると、一番会いたくない相手――兄――が立っていた。
「兄ちゃんには関係ないよ!」
ムスッとしてきびすを返す僕の手元を兄がお構いなしに覗き込んだ。
「なんじゃあ、アリジゴクか……」
砂の詰まった瓶を見て兄が得意げに鼻を鳴らす。
「俺もお前ぐらいんとき、ここでよぉ採りよったで」
意外、だった。
今まで兄と田舎に来てもここにアリジゴクがいるだなんて教えてくれなかったのに。
「お前には知られとぉなかったんじゃ」
兄の呟きを聞いてハッとする。
そう。兄も僕と同じ気持ちだったのだ。
いつも威張っていて嫌いだった兄が、ほんの少し近く感じられた。
「母ちゃん、アリジゴクの穴場、剛に見つかってしもぉた!」
後ろを振り返って声を張る兄に、母も近くまで来ていたことを知る。
「そぉ。残念じゃったね~」
ニコニコと微笑む母は、ここの存在を最初から知っていたらしい。
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