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 そんなわけで、僕の右足のふくらはぎには直径一センチぐらいの(クレーター)がある。  こんなにも痣が大きくなってしまったのは、きっと毒で皮膚が壊死(えし)してしまった結果だろう。  陥没(かんぼつ)してしまった傷痕を見るたびに、僕の脳裏にはハチに刺されるまでのシーンがスローモーションで鮮明に再生される。  ゆっくりと曲がるお尻。  打ち込まれる毒針。  こちらに向けられたハチの顔。  僕の足で脈打ちつつ毒を注入する、ハチからの嬉しくない贈り物。  高校生になり、それ自体は十年以上も前の出来事になってしまったというのに、色褪せない衝撃の記憶。 「これ、四歳ぐらいのときにスズメバチに刺された痕なんっちゃ! すごく(ぶちくそ)痛かったんじゃけぇ!」  実際、その後ミツバチに二回、アシナガバチに三回と刺されたが、「何だ、こんなものか」と拍子抜けしてしまったほどだ。  放課後、教室で数名の友人にその穴を見せながら言うと、どれどれ?と触りまくられた。 「(つよし)、これ、滅茶(ぶち)落ちくぼんどるじゃん!」 「当たり前よ! こんなにでかいハチじゃったもん!」  記憶を手繰(たぐ)り寄せ、指で十センチぐらいの大きさを作ると、近くに居た別の友人が、 「馬鹿、お前、そりゃあ(いく)らなんでも大袈裟(おおげさ)じゃろー」  と笑った。 「いや、マジでこのくらいあったっちゃ!」
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