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長々と居座っていた太陽はようやく沈んだものの、室内には昼間の熱がまだ残っていた。
しっとりとした熱気は、ぼんやりと佇んでいる少女にまとわりつく。しかし、滑らかな肌には汗ひとつ浮かんでいない。
色素の薄い少女だった。
きめ細かい肌も白ければ、腰まである長い髪もまた白い。作り物じみた印象を与える中で、深い色をした瞳は生気をたたえている。
濃いまつ毛に縁取られた目は、天井まで届く本棚を眺めていた。
視線は背表紙をなぞるでもなく、ただ重々しい装丁の本たちに注がれている。
少女は片腕に古びたぬいぐるみを抱いていた。
ふと、もう片方の腕がえんじ色の着物から伸びる。その手がつう、と本をなでた時、扉のノブを回す音がした。
びくりと肩を震わせた少女は、本棚の影に隠れる。ふわりとフリルのついた袖が広がった。
扉を開けたのは学生帽に学生服姿の青年だった。青年は丁寧な動作で扉を閉めると、抱いていた花束をソファに置き、自身も花束の隣に腰かける。
ふう、と溜息をつき、かけている眼鏡の位置を直した。眼鏡は片方のレンズしか見えない。長い前髪で片側が隠れているからだ。
青年のいるソファは窓辺にあり、少女が隠れる部屋の隅からは離れている。
背を壁に預けた少女は胸を押さえた。
(あの方だ)
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