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「私は安心しましたよ。お坊ちゃん、最初はお会いになるの渋っていたでしょう? でも、何だか良い感じみたいで」
「別に、そんなんじゃ」
からかうセリフに青年が反論しようとして、言葉を途切れさせた。
前髪で隠れていない方の目が痛むようで、手で押さえている。どうしました、と慌てる家政婦を手で制した。
「大丈夫。今日は日差しが強かったから、目が疲れただけだよ。ちょっと痛んだだけたって。心配性だな」
でも、と言いすがる家政婦に苦笑する。
「こっちの目が見えなくなった時も、ずいぶん心配していたよね。僕が少し歩くだけで追いかけてきて。おかげで厠に行きづらいったら」
おどける青年に当然ですよ、と家政婦はむくれる。
「片目が失明されたんですよ。事故の怪我だって治っていなかったし。それに……」
何事か言いかけて口をつぐむ。
しかし、青年には続きが分かっているようで、そうだねとうなずいた。
「僕はあの事故で大事なものを失い、とても傷ついていた。肉体的にもそうだし、それから……心も」
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