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夜の浜辺。歩道から砂浜へと下りるための階段の、一番下の段に腰かけて、遠くを見つめている彼女の横顔を見たとき。
――あぁ、死にに来たんだな。
そう、思った。
雨が降っていた。七月に入ったというのに、いまだに梅雨は明けておらず、涼しい日が続いていた。
しとしとと降り続く雨の中。彼女は傘も差さず、スマホだけを握りしめていた。濡れて肌に貼り付いた白いワンピースは死に装束だ。脱いだ靴は綺麗に揃えられていた。
それ以外の持ち物――カバンだとか、そういうモノは見当たらなかった。
声をかけるつもりも、ましてや止めるつもりもなかった。
それなのに――。
風が吹いて、持っていたコンビニ袋がガサガサと音を立てた。
その音に、彼女は顔を上げて振り向いた。
すぐに目を背けて、俯いてくれるなら、そのまま黙って立ち去った。
しかし、目が合ってしまった。
彼女の方も、凍り付いて動けなくなってしまったようだ。
この状況で彼女から目を背け、立ち去るわけにもいかず。
「ワインはお好きですか? 一人では飲みきれないほどの量があるんです。手伝ってもらえると、助かるのですが……」
私は階段を下りると、彼女に傘を差しかけたのだった。
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