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まるで世界が、空気が、人間一人を描いているかのような錯覚。もっとわかりやすく述べるなら、鏡に映した自分自身が鏡の中から這い出てくるような感じだ。世界の背景を迷彩のように着込んだソイツは、どんどん己の姿をさらに明確にしていく。
俺はその姿に見覚えがあるように思えた。俺だけじゃない、御玲や弥平も口を開けながら、既にその姿を直感していた。
忘れるはずもない、今から一ヶ月前に似たような奴と出会い、そして戦ったのは記憶に新しい。もしもソイツが、その本人だったなら俺らの本能が危険信号を全力で発しているのは間違いないだろう。
今思えば声も聞いたことがある。この声音を発する奴は、俺の人生でただの一人しかいない。
ついに世界は奴を描き終えた。奴の体色は世界の背景を消し去り、日焼けを知らない白い肌を取り戻すと、夕陽を乱反射させる鏡面加工の銀髪を靡かせ、ブラックホールを彷彿とさせる常闇の瞳が俺たちを冷たく、どこまでも冷たく睥睨した。
「お前は……裏鏡水月……!」
俺は片手で柄を握り、ソイツの名を呼んだ。
裏鏡水月。一ヶ月前、俺たちが親父に関する情報を得るために誘き出そうとしてあわや壊滅状態にまで追い込まれた怪物。この場の誰もが戦ったが敵わず、ゼヴルエーレの力を以ってして滅ぼすことができなかった、本物のバケモノだ。
「``禍焔``。お前に預けていた白星、返してもらうぞ」
「なんのことだ。もうテメェと戦う理由なんかねぇぞこっちは。喧嘩ならよそでやってくれや」
「そうはいかぬ。その白星はお前に預けただけのこと。いつか奪いにくると言ったはずだが?」
「戦う気はねぇって言ってる。もう一度だけ言うぞ? 喧嘩ならよそでやれ。この戦闘狂が」
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