「たぶん今日、この人とセックスするんだろうなぁ」みたいな感じだった。

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20歳を少し過ぎたくらいかな その辺りから何となく思ってた たぶんいつか、自殺するんだろうなって 今年もいつの間にか5月になった。5月は私の誕生月だ。春は出産の負担が少ないらしくて、〝あなたは生まれる時から親孝行だったのねぇ〟と、ご近所さんに言われたことがある。 全然そんなことない。 むしろ逆だ。 お父さん、お母さん。 ごめんなさい。 たぶん今日、私は自殺します。 いま隣にいる恋人と一緒に。 「そんなに嫌ならさ、バイト休めば? どっか遠くに行こうよ」 今朝、彼はそう言った。 名前はジュン。私の幼なじみで恋人。 コンビニのバイトに行きたくないあまり、玄関で靴を履いたまま動けなくなっていた私に、さらっと提案してきた。 そんなの出来るわけないじゃん。みんなに迷惑かけるでしょ。 いつもならそう返すのに。 「分かった」 私はそう答えていた。 頭より先に口が動いた。 私が自分の言葉に驚いている間に、ジュンは後ろに手を回してエプロンを外した。 それからサイフを持って、サンダルを履いて、 「じゃあ行こっか」 笑った。 バイト先には連絡しなかった。 あっちから電話が来るのが怖かったので、スマホは家に置いてきた。 (店長、怒ってるだろうな) 〝使えない奴〟 〝低能〟 〝クズ〟 ーーって、私の悪口を言いまくっているんだろうな。 でも何でだろう。驚くほど心は落ち着いていた。あの気分屋ですぐに他人を怒鳴る店長のことを考えているのに、とても穏やかな気持ちだ。ガタン、ゴトンと揺れる電車の音も無性に優しく聞こえて、今なら睡眠薬が無くても眠れそう。 隣に座るジュンを見た。 これからどこに行くのか、何をするのか。 ジュンは何も言わなかった。 私も何も訊かない。 分かるから。 ジュンは今日、私と一緒に死のうとしている。 それは何ていうか、「たぶん今日、この人とセックスするんだろうなぁ」みたいな感じだった。 誰かと出会って、食事に誘われて、告白されて、付き合って、何回目かのデートの時に〝そろそろホテルに誘われるだろうな〟って時の予感に似ている。 電車が停まった。 随分と遠くまで来たけど、ジュンはまだ降りようとしない。 向かい側の席にいた人がみんないなくなった。 さらにしばらく経った時、ジュンが私の手を握ってきた。 外でこういう事するのは恥ずかしくて苦手だけど……。今は別に良いや。 合意だ。 これは合意の上での行為だ。 イヤなら、こんな風にのこのこ付いていかない。 あとはもう、流れだ。
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