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「怖い思いをしたこととか、ないんですか?私はそういう場所ってすぐ寒気がしちゃって、全然近づけないんですけど」
「はは、文歌ちゃんは怖がりだなあ」
幽霊を怖がる女の子を、優しく慰めるというのも気分がいい。俺は少し調子に乗っていた。
「確かに、今まで行った場所の中にもいくつか“これはやべぇな”っていうところもあったかな。最近だと、あれだな……一週間前に行った“西小倉の路知らず”っていうところ。知ってる?かなり有名なスポットなんだけど」
西小倉の路知らず。オカルトスポット紹介サイトには必ず載っているほどの場所だが、有名であるわりにリポートされた写真や動画が殆どなかったりする。理由は簡単。その場所が“人間が絶対に踏み込んではならない禁足地”とされているからであり、“踏み込んだら最後必ず命を落とす”とまで言われている恐ろしいオカルトスポットであるからだ。外側から動画や写真を撮るまではセーフでも、絶対にその囲いの中に入ってはいけない。だから、その内側がどうなっているのか誰も知らない見ていない、というのである。
不思議なことだ。そこは、ただの狭い区画の竹藪でしかない。ぐるり、とボロボロの木造の囲いが設置されていて、正面の一箇所のみ鳥居が設置されている場所。閑静な住宅街の中に、何故か一箇所だけ取り残された謎の竹藪は、鳥居をくぐってのみ中に入ることができるようになっているのだが。
その竹藪の中が、まるで異界のごとしと言われているのである。小さな一軒家一個分のスペースしかないというのに、そこに踏み込んで帰ってこなかった者が何人もいるのだとか。
「聞いたことはあります。絶対に入ってはいけない禁足地だって……え、まさかシノブさん、そこに入ったんですか?」
「正解。勿論、塩とかお守りとかきちんと装備していったけどなー」
絶対に入るなと言われたら、入りたくなるのが人間だ。
むしろ自分が中を探検して本当に危ないことがわかれば、他の人が入ろうとは思わなくなるはずであるし。逆に、入って何もなければ、噂が一人歩きしただけだの何もない竹藪だったとみんなを安心させてやることもできるはずだ。
そう考えて、俺は今まで誰もが気になりながらも足を踏み入れることができなかった場所に、カメラをもって突入することを決意したのである。
動画は既にアップ済み。禁足地だと知る者からはかなりの数の低評価も貰ってはいるものの、今のところ今までアップした動画の中でも最速の“伸び”を経験している状況だ。
「結論を言うと、危ないっていうのは幽霊どうたらじゃないのかも?ってことだったんだよな。いや、何かいたのは事実なんだと思うけど、俺には見えなかったしな」
何故あそこに入っていけないと言われているのか、その理由の一つはすぐに知れることとなった。手入れされずボウボウに生えっぱなしの竹藪は、あちこち折れたり腐ったりして非常に危険な状態であったのである。足の踏み場を確保することさえ困難で、入ってすぐに進むのが難しくなってしまったのだった。下手に転んだら折れた竹を引っ掛けて大怪我する可能性もありそうだ、と思ったほどである。
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