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後部座席のお殿様
「社長。どうぞ」
「おお。今日から君か」
「はい」
シルバーのスーツ。爽やかな好青年の若社長の彼を乗せた希美はどちらかと言うと腰痛の長澤を気にして正面玄関から発車した。
自分の社長でありながら直接話をしたことはない希美。それでも今は運転に集中していた。
行き先は池袋。渋滞の道を運転する希美はだんだんリラックスしていた。
後席の社長の六堂真彦は電話をしているようだが間仕切りのガラスで聞こえなかった。希美は長澤に尋ねた。
「長澤さん。これって。私から社長に聞きたいことがある時はどうするんですか」
「そういう時はこのブザーですが、まあ大抵は社長の方から勝手にオープンにしますけどね」
運転席からのスイッチを教わっている時、ウイインと窓が開いた。
「おい。そこの二人。今、俺の悪口言ってたろ」
「いいえ」
「坊っちゃま。それはまだでございまして。ただ今のは使用法の伝授でございます」
「いや?爺やの口が『勝手』だと動いていた」
鏡で唇を読んでいた社長にビビる希美に長澤はハハハと笑った。
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