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正直に言おう。
私、渋木一華(しぶきひとか)は恋愛をしたことがない。
高層ビル。
綺麗に並ぶ木々。
進みが遅い車道に、時間通りに発車する電車。
コンクリートがひしめくこの街は、憧れていた時と引っ越してきたばかりの時の輝きは失われ、今では働く私たちを捕まえておくための檻にしか見えなくなっている。
一華はそんな中で唯一ある公園のベンチに腰掛け、大きく息を吐いた。
ここに引っ越してきたのは三年前。大学卒業と共にやって来た。
田舎と言っては友人が怒るけれど、私からしたら田舎としか思えない地元を離れ、この都会に就職したのだ。
仕事は大変だけれど、それなりに上手くいっているし、ホームシックには一度もなったことがない――新幹線一本で帰れる距離だし。
同僚との仲も悪くない。
だがしかし、だ。
今日は月に一度の休日出勤。
人が溢れる街中を通り過ぎて来たこの公園。
その間にどれだけそれを見ただろう。
楽しそうに手を繋いで歩く男女。
近すぎる距離でスマホを覗き込む男女。
向かい合うのではなく、隣同士の席でご飯を食べる男女。
「なんなの。ほんとなんなの」
夕焼け色に染まった空を見上げ、それから指を組んで地面に視線を下ろす。
公園にまだ子供が数人残っていたけれど、母親や父親に名前を呼ばれ、帰って行く姿を見送れば、気付けばここにいるのは青いストライプに黄土色のパンツ、フォーマル姿の一華だけだ。
休日出勤は別にいい。だって予定なんてないから。それに給料も出るし。
けれど平日よりも目に映るあの男女――恋人たちを見るのが辛かった。
ではここで最初に戻ろう。
私、渋木一華は恋愛をしたことがない。
別に男が苦手だとか、対象が同性だとか、そういうことではない。
恋愛をしている彼らが気持ち悪いとか、リア充爆ぜろとか思うわけではない。
しかし思う。
「どうして私は恋人が出来ないのっ」
なぜこんなにも恋愛に憧れを抱いているというのに、恋人を作るどころか恋愛すらしたことがないのだろうか、と。

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