硝子の音色

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 ――ちりん  ――ちりん 「ありゃあ、あんたんとこの嫁さんかぇ?」 「え!? 八千代の事ですか? いえ――私の一番弟子ですよ」 「てっきり嫁さんかと思っておったわい」 「ははは。よく間違われます」 「綺麗な娘さんだねぇ。あんたの作る硝子の風鈴の音みたいだよ」  風鈴の音を聞くと思い出す――  君の笑顔は輝く硝子のようだったと。  初めての恋は千代子さん。  その恋はまだ続いている。 「武雄さん! 見てください! 結構上手に吹けましたよ!」 「ん~? ちょっと歪んでないか?」 「味があって良いじゃないですか。ちょっと鳴らしてみましょうよ」  八千代が店の軒先に風鈴を掛ける。  ――ちりん  ――ちりん  沖から吹くあいの風が優しく音色を響かせた。 「音は、綺麗だね」 「音も、綺麗と言ってください」  笑った顔がそっくりだ。  八千代は千代子さんからの贈り物――いつしかそう思うようになった。  いつまで経っても時計の針が進まない僕を心配していたのかもしれない。 「まだまだ修行が足りないな。やり直しだ」 「え~!?」 「売れなきゃ意味ないだろう?」 「まぁ、そりゃあ、ね」  ちぇ、と頬を膨らます八千代。  硝子工房の軒先には八千代が作った歪な風鈴が大量に吊り下げられている。  太陽を集めた風鈴が地面に色とりどりの花を咲かせていた。  ――ちりん  ――ちりん 「これだけ吊り下げていたらそっちにも聞こえているかもね」 「え? 何か言いました?」 「いいや、何でもないよ――さぁ仕事仕事! もうすぐ夏だ」  僕がそっちに行ったらもう一度、恋をしよう。  一人前になった僕を見て欲しい。  硝子の音色 了
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