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友人が自殺した。
一人きりの部屋で、バカみたいな量の睡眠薬を飲んだらしい。見つかったときには、文字通り眠るように死んでいた。涙のあとが残る遺体の近くには、遺書や書き置きなどはなかった。どうして死んだのかもわからないまま、私の一番の友人は死んでしまった。
「アリサ……。」
遺体が入った棺の前でぼんやりと呟く。現在、午前2時。先程まで周りでアリサの死を悼んでいた人々はとっくに寝床に入っているが、私はどうしても眠れなくてアリサのもとに来ていた。とめどなく流れる涙が鬱陶しいが、最早それを拭くことすら面倒だ。
どうして死んでしまったのだろう。私達は親友だった。そのはずだ。なのに、どうして相談の1つもなく死んでしまったのだろう。
「アリサ…なんで相談してくれなかったの?そんなに私頼りなかった?」
また涙が膨れ上がり、頬を滑り落ちた。それが床に落ちる直前、空調の風とは違うひんやりとした風が前髪を揺すった。
『頼りなかったわけないじゃん。死んだのは死にたかったからってだけだし。』
「え?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、こちらを覗き込む2つの目と視線が交わった。陽の加減によっては金色にすら見えるほどに明るい色をした目だ。それは、間違いなく死んだアリサのものだった。
「…え?アリサ?」
『うん、アリサだよー。あぁほら泣かないでよスズ、目ぇ腫れちゃうじゃんさ。』
すいっと手が伸ばされて、目元に触れられる。しかしそこに感触は無く、なんとなく冷たい気がする程度に感じられるだけだ。よく見るとアリサの体はぼんやり透けていて、見下ろせばそこに変わらず遺体がある。
「は、え?アリサ、幽霊?幽霊なの?」
『知らなーい。スズがそう思うならそうなんじゃん?』
「ええぇ」
適当すぎる。しかしそこがアリサらしい。アリサは基本、本当に大切なこと以外は適当なのだ。そこまで考えて、私がアリサの幽霊が出たと言う事実をそこまでの驚きもなく受け止めていることに気づく。人間、あまりにも驚いたら一周回って冷静になるのかもしれない。
「あ…そうだアリサ、せっかく会えたなら聞きたい。ねぇ、なんで死んじゃったの?泣きながら死ぬ程辛かったなら、相談くらいしてほしかったよ。」
『えー?いいじゃん別にどうだって。死にたかったから死んだの。それだけだから。』
「そんな……。」
アリサの答えを聞いて、また涙が溢れてくる。死にたくなったから死んだって、そんな簡単に死ねるわけないのに。少なくとも、泣くような事はあったはずなのに。アリサの返答の適当さが悲しい。そんな私の様子を見てアリサは一瞬躊躇ったように見えたが、変わらず飄々と泣かないでよーと冷たい手で私の目元に触れた。
『本当に、死にたくなっただけなんだよ。誰も悪くない、特にスズは悪くないよ。ねぇお願い、泣き止んでー。』
「…じゃあ、死んだ理由は教えてくれなくてもいいから、泣いた理由だけ教えてよ。それを聞いたら、もうなにも聞かないから。」
『え?あー、それは…。』
「アリサ」
じっとアリサを見つめる。しつこいと思われるだろうか。死んだ人間にその時のことを聞くなんて惨いだろうか。でも、それでも知りたいのだ。どうかその理由を知って、一緒に悲しみたいのだ。生前のアリサはいつだって、私の事を第一に考えて寄り添ってくれていたから、私だってアリサに寄り添いたい。それが遅れに遅れて、死後になってしまったが。
見つめ合うこと数分、アリサは仕方がないと言う風に肩をすくめた。
『しょうがないなぁ。後悔しない?』
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