その手が

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私は、ポツリポツリと語り始めた。 親に甘えさせてもらえなかった事。それがトラウマになって今まで泣けなかった事。婚約者に捨てられた事。会社を辞めてしまった事。自分が空っぽになってしまった事。 その間、健志さんは黙って頭を撫で続けてくれた。 何も言わないのに、その手は語り掛ける。 ”大丈夫だよ” 心が溶ける。 涙がこぼれた。 「いつまでもここに居ていいよ」 健志さんがポツリと言った。 そんな迷惑を掛けられない。 でも出来るならここに居たい。 その優しい手の側に居たい。 「迷惑では?」 「いいよ、僕が君を海で拾ったんだ」 健志さんは、いたずらっぽく笑う。 こうして私は彼の家で暮らしはじめた。
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