その手が

16/18
前へ
/18ページ
次へ
二人と一匹の生活が始まって一ヶ月が経った頃 タマの姿が見えなくなり、二人で海岸や公園を必死に探したがそれでも見つけられなかった。 健志さんは、少し寂しそうに 「そのうち帰ってくるよ」 と、呟く。 私は、彼の笑顔が曇る事に悲しみを覚える。 翌日、国道の脇に変わり果てた姿となったタマを見つけた。 タマを抱え泣きながら家に帰るなり 「健志さん、健志さん、健志さん」 彼を呼び、二人で涙を流す。 既に冷たくなってしまったタマを健志さんの手が優しく撫でた。 ペットとは言え大切な家族だった。 タマは、私と健志さんが出会うキッカケをくれた。 私でさえこんなに悲しい。 タマを長い間、可愛がってきた健志さんは私の何倍も悲しい事だろう。 浅い眠りの中で夢をみる。 彼の優しい手で撫でられている。 何度も何度も 彼の優しい手で撫でられている。 浅い眠りの中で夢をみる。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加