その手が

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喫茶店を飛び出した私は駅に走り到着した電車に飛び乗った。 車両の端の席に腰掛け目を瞑る。 女友達でココ一番にハラハラと綺麗な涙を流す子がいた。 きっと聡が好きになった子も涙を武器にも味方にも扱える子なんだろうな。 そんな子と比べたら、私は、ホント可愛くない。 気持ちは泣きたくても涙が出ないのだから この先、どうしたらいいのだろう。 彼から告白されて付き合い始めて、私はわたしなりに聡の事を大事に思っていた。 会社の帰りに待ち合わせをした事。クリスマスを一緒に過ごした事。二人で温泉旅行に行った事。色々な思い出が蘇る。 聡にプロポーズされて嬉しかったし、一生を共にする覚悟だってあった。 結婚式場探しだって、楽しそうにしていたのに本当は嫌だったの? それならプロポーズなんてしなければいいのに……。 親に結婚がダメになった事を報告して、会社だって部署が違うけど居ずらい結婚式の招待状はまだ送っていないが、招待の打診をしている人もいる。破談になった話なんて面白おかしく噂されるんだろう。ましてや、婚約していたのに、二股掛けられてフラれなんて最悪な出来事。お仲人をお願いした上司にも謝罪をしなければいけない。これからの事を考えると気が重い。
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