その手が

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電車の椅子に座ったまま横の手すりに持たれ掛かり電車の振動を感じた。 ガタンガタァン ガタンガタァン 部屋に戻りたくない。 聡との思い出が詰まった部屋になんて帰れない。 このまま電車に揺られて遠くに逃げ出したかった。 でも……。 泣いてもなにも解決しないように、逃げてもなにも解決しない。 胸の奥に重いモノを溜め込みながら 顔を上げて立ち上がり電車を降り歩く。 アパートに着いて、部屋のドアを開けるとワンルームの室内が見渡せ、部屋に残る聡の痕跡が気になった。 すぐさまキッチンに行きとゴミ袋を手に取ると彼とお揃いのマグカップをゴミ袋に入れた。 部屋に戻ってテレビの横のDVD、彼の服、彼から貰ったバッグ、 とにかく彼の痕跡を消したかった。 洗面所に行き、洗面台にある彼の歯ブラシを手に取った。その時、洗面台の鏡に自分の顔が映り込み、思わずハッとする。彼への憎しみに満ちた”その顔” 「お前は、可愛くない」その言葉が脳裏を過ぎり力が抜け、ヘナヘナとしゃがみ込んでしまう。 そう言えば、幼い頃に親からも言われた。 「お前は、可愛くない」と、母に甘えようとすると「うるさい」と「あっちで一人で遊んでいなさい」と事あるごとに言われた。仕事から帰って来た父に甘えようとしても「うるさい」「疲れているんだ」と振り払われた。 そして、悲しくて泣いた。 でも、泣くと余計に叱られた。 泣いても誰も助けてくれない。 泣いたら怒られる。 甘えたくて手を伸ばしても振り払われる。 叱られる。 それがトラウマになり泣けない甘えられない 誰にも甘える事を知らずに大人になってしまった。 聡にも上手に甘える事が出来て居なかったのかもしれない。 私は、大人になりきれない子供だ 本当は甘えたがりの子供 私の事なんて誰も愛してくれない。  
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