その手が

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月曜日 出社すると、ヒソヒソ話す人達が目に付く。 ウワサの標的は自分ではないのかも知れないけれど自分の事を言っているのではないかと疑心暗鬼に囚われ、胃が絞られるように痛んだ。 それでも社会人としての義務を果たさなければならない。 上司の所に行き、結婚の取りやめの報告と退職願を提出し、頭を下げた。   顔を上げると憐憫を含んだ目で見られ、言葉が降りかかる。 「そうか、辛いね。それなら有給休暇も残っている事だし消化を兼ねて明日から休みに入ってそのまま退職でいいよ」 親切に気を使ってなのか、厄介払いなのか、仕事の引継ぎもあるのにあまりにも軽い扱い。私は、会社にも必要とされていないと感じた。 視線を落とすと手が小刻みに震えている。 痛む胃を抑えながら今日を乗り切った。 帰りの電車に乗り込み椅子に腰掛けるとドッと疲れが押し寄せてくる。 辛い。 涙を流す事はストレスの発散になると何かの記事で読んだ事があるけど、泣けたら楽になるのだろうか。 恋人と別れ仕事も辞めてしまった。 当然、結婚もなくなり、今の私の予定はゼロ。 ”空っぽ” 何もない。 目を閉じると、電車の振動が伝わる。 ガタンガタァン ガタンガタァン……。  
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