その手が

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ハッと目を開けると車窓の景色に見覚えがない。眠り込んで乗り過ごしてしまっていたようだ。見知らぬ駅に到着し、取り敢えず下車してスマホで検索してみると海岸が近い駅らしい。 改札を抜け、知らない町の暗くなった道をスマホのナビを頼りにフラフラと海岸へ歩き出した。 住宅街を抜け公園に入ると潮の香りと波の音が聞こえて来る。 スマホの明かりを懐中電灯の代わりに足元を照らし砂浜に降り立つ。 誰もいない夜の海、夜空には寂しそうな三日月が浮いていた。 岩が平らになった場所に腰を下ろして寝そべり、深呼吸をする。 聡にフラれてから気持ちが重い。 夜も熟睡できず、胃も痛い。 今日は一日中、ずっと気が張っていた。 潮騒と星空が疲れた心を慰めてくれるようだった。 岩がひんやりと心地良く、波の音が優しい。 目を瞑り耳を傾けた。  
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