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心の重いモノが溶けだすように涙が流れる。
見ず知らずの男性が、泣き続ける私の背中を擦り
「大丈夫、もう大丈夫だよ」と声を掛け続けてくれている。
今まで何年も泣きたくても泣けなかったのに何故こんなにも泣けるんだろう。
小さな子供のように泣き続けしゃくりを上げる。
そのたびに「大丈夫だよ」と優しく声を掛けられた。
暫くして涙が落ち着くと 男性は、「もう大丈夫?」とポンポンと背中を軽く叩き「病院行く?」と聞いてきた。
私は首を横に振る。
「服どうする?嫌じゃなければ、ウチで休んで行くといい」
見ず知らずの男性の家にあがるなんてどうかと思ったが、全身ずぶ濡れなうえに手荷物も流されてしまったのか手元には何もない。
それに男性もずぶ濡れだ。きっと私を助けるために海に入ってくれたのだろう。その後もずっと一緒にいてくれた。悪い人ではない事は確かだと思う。
私は、その男性の家について行くことにした。
暗い海岸をゆっくりと進み、公園に入ると白猫がニャーと甘えた声を立てながら寄ってきた。
「お前こんな所にいたのかい?探していたんだよ」
男性が嬉しそうに白猫を抱き上げる。
「猫を探しに来て良かったよ。そのおかげで君を見つける事ができたんだ」
白猫がゴロゴロと咽喉を鳴らし男性に甘えた仕草をすると、まるで赤ちゃんを抱くように左手で白猫を抱き、右手で愛しむ様に撫でていた。
その様子を見てホッとする。
ゆっくりと歩き出す男性の後をついて行く。
公園を抜け、道路を渡り住宅街に入ると、その一角にある、コンクリート打ちっ放しのモダンな作りの一軒家に案内された。
「ここに一人で暮らしているんだ。部屋も余っているからゆっくり休んでいくと良い。もう電車もない時間だしね」
部屋の明かりを付け、着替えとタオルを渡される。
「お風呂であったまっておいで、僕は猫と遊んでいるからゆっくり入るんだよ」
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