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父がいないので、女性は母と花道を歩いた。なぜその道をバージンロードと呼ぶのだろう。女性は違和感を覚えた。女性は白を着なかった。「普通はみなさん白ですよ。ほんの僅かですがピンクやクリームイエローの方もおられますが、黒はいただけません。何より招待する賓客や親族も含め、皆様に不信感を抱かせる恐れがあります。お考えなおしください」とプランナーは言ったけれど、女性は頑として信念を曲げなかった。
父への弔いのために着ると、初めから決めていたからだ。ドアを開けたときには拍手よりどよめきの方が大きかったけれど、それは最初だけ。何より彼女には黒がよく似合っていた。
婿となる男性も、女性の意向を理解してくれていた。結婚式で黒を着ることにより女性が父の死に区切りをつけると告げていたからだ。
披露宴でも衣装直しは行わない。ぶっ通しの黒衣装。
死との決別には、思いの外時間がかかるもの。父の死にざまを間近で観察して、死に対する深い疑問をもった。死とは、残酷なものではなく悲しいものでもなかった。想像を超えた得体の知れない虚無として女性の心には死が刻印された。
そこには意味はなく、感情もなく、神もいなかった。生者であった人が、実は単なる物質だったのだということをつくづく思い知らされた。そういう彼女自身もやがて、思考も感情も伴わないただの物質であるという本質そのものに帰っていく。
父を弔うということは、そのような死への恐怖を意識的に遠ざけ、今この瞬間だけを生きると誓うことなのだ。そして男性は、それを理解してくれたただ一人の人間だ。
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