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EP.2 罪と罰と悪魔と神様
百合園邸の応接間は、当然のように真っ白だ。壁も床も、ソファもテーブルも、カーペットやシャンデリアにいたるまで。
この応接間に通される客人はみな、不快な気分にさせられるはずだ。現に、ソファに座っている皐月は、不機嫌な表情を浮かべている。この家の潔癖すぎる内装はやはり気に入らない。
この日皐月は、父親である和也から呼び出されていた。用があるならメールかラインで済ませればいいというのに、わざわざ呼び出されたのだ。
それほどまでに重要な話があるのだろう。無視するなり、呼び出しを断ることもできたが、先日の借りがある手前、どうしても無下にはできなかった。
応接間に、皐月の不満げな声が響く。
「わざわざここまで呼び出して、なんの用件かと思ったら……何これ」
目の前に置かれていたのは、一丁の銃だった。哲や健一が持っているものよりも小さい、銀色のリボルバーだ。
正面に座っている和也に、冷たく言い放つ。
「俺に持ってろってこと? 」
和也は顔色一つ変えずにうなずいた。
「護身用にね。使い方はわかる? 」
「そりゃわかるけど」
リボルバーに視線を落とす。平然と持ち上げる気にはなれない。
「よかった。じゃあ大丈夫だね」
ほほ笑む和也に、皐月は微妙な表情を浮かべた。
百合園。西園寺。九条。この御三家の出身者は、三美神の身内として命を狙われやすい。命を狙うだけに留まらず、情報を引っ張って利用してやろうとする者もいる。
事件に巻き込まれないためにも、御三家の子どもには護身術などの特別な教育を受けさせられるのだ。皐月は当然、銃の扱いについても学んでいた。
「いや、でも、俺、最近は射撃訓練なんてしてないし……腕が落ちてるかも」
和也は困ったように眉尻を下げて、笑う。
「大丈夫だよ。殺せって言ってるわけじゃないんだから。あくまでも護身用。皐月は刃物も持ち歩いてないみたいだから、心配だったんだよね」
御三家の人間が命を狙われ、利用されやすいのは周知の事実だ。だからこそ、御三家の人間には武器の所有が認められていた。
「別に必要ないと思うけど」
皐月は素っ気なく言い返す。
あのムカデ事件に遭遇するまで、武器を使う状況になったことはなかった。武器なんて、「普通の生活」を送る上では必要ないものだ。
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