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スーザンでの光景を思い出す。和也のように冷酷無残に人を殺すことなど、皐月にはできない。しかしあれほどの力がなければ、生き残ることは難しいだろう。
皐月の頭にだんだん白いもやがかかってくる。思考がまとまらない。皐月は自分で思っている以上に疲れていた。さっきまでの出来事が、夢だったのではないかとすら思えてくる。
皐月は、鈍い頭を限界まで働かせながら言った。
「あの……西園寺様。三美神の下に付く代わりに、お願いがあるのですが」
哲は皐月をじっと見つめ、おかしそうにほほ笑んだ。
「この俺と交渉する気か? 」
皐月はすぐに後悔する。三美神相手に、お願いなど通用しない。特に新参者の皐月では、そうやすやすと聞き入れてくれないはずだ。
「いいだろう」
思いの外、哲は柔らかい口調で返す。
「俺たちのせいでこうなってしまったところはあるからな。言ってみろ」
皐月は意を決して、哲を見つめる。哲が聞いてくれるかはわからなかったが、今ここでしか言うチャンスはなかった。
「俺、できる限り事件の捜査に参加します。学業は優先させてほしいですけど」
「それは、もちろん」
当然のことだと、哲はうなずく。
「だから、瑠璃ちゃんを現場に呼ばないでほしいんです」
その瞬間、哲の表情が冷めたものに変わっていく。人間味のない冷ややかな顔に、皐月はひるむことなく続けた。
「今の段階では無理かもしれませんけど。でも、瑠璃ちゃんの代わりをつとめられるように精進しますから」
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