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もちろん納得はしていない。しかし条件は飲む。今、一番危ないのは瑠璃よりも皐月であることは明らかだ。皐月の条件を飲んででも、しばらくは皐月を守らねばならない。
「とりあえず今は、自分のことを考えろ。さっきみたいに、また命を狙いに来るやつがいるかもしれないし」
「……はい」
皐月は瑠璃が無事でいてくれるのなら、それでいい。自分の命よりも、生活よりも、将来よりも、瑠璃のほうが大事なのだ。瑠璃のために自分を犠牲にするなど、瑠璃は望まないだろうが。
自分が強くなることに。自分が嫌だったことを受け入れることに。もう抵抗はなかった。
「今日は、ありがとうございました」
哲に向かって、皐月は深々と頭を下げる。哲のため息が小さく響いた。
「もう今日は帰るといい。疲れただろう。送ってやれないが、一人で帰れるな? 」
その声色は真面目で、どこか冷たさのある声だった。
「俺はこのあと用があるんだ。ここの後始末もしなきゃいけないし」
「……わかりました。ではお先に」
皐月は再び頭を下げ、哲に背を向ける。リュックと日本刀を大事に抱え、これ以上現場を荒らさないよう、さっさとその場を去っていった。女子高生の遺体を、見ないようにして。
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