EP.6 人のうわさはいつまでも続く

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          †  小森ゆきは古雅出版につとめる記者だ。週刊古雅で主に三美神がらみの事件を担当している。  ゆきが最新刊に書いた記事の評判はすこぶる良かった。どこの週刊誌よりもはやい情報で、写真もきれいに映っているものを使っている。  記事を載せるとき、編集長にはまだ早いと渋られていた。もっとよく裏取りをしてから、と。記者として裏取りが必要だとわかっていたものの、このままでは他の週刊誌にスクープを持っていかれるかもしれないと焦っていた。  写真を撮った百合園家の次男は、スーザンの事件にも関与していたことがわかっている。妊婦連続殺人事件でも、西園寺瑠璃の代わりとして捜査に加わっていたことは把握済みだ。  編集長からは「正式発表がない限りは、簡単に掲載はできない」と言われていた。正式発表なんて待っていたら、せっかく得た情報も宝の持ち腐れというものだ。「彼らは芸能人とは違う」と説明する編集長に対して、ごり押しにごり押しを重ねて、「何かあったら自分が責任を取る」とまで豪語した。  その結果、ついにあの記事を載せることができた。記者人生の中で、一番大きいスクープになる。そう信じて疑わなかった。  ゆきは半日ほどかかる取材を終え、出版社に戻ってきた。受付嬢の視線が妙に突き刺さることを自覚しながらも、部署に急ぐ。  エレベーターに乗っているときも、廊下を歩いているときも、不安げにゆきを見る視線を感じた。不審に思いながらも、デスクのある部屋に入る。
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