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部屋の奥には、スチールガラスで仕切られた会議室がある。声は聞こえないが、中のようすは見えるよう作られていた。
その手前に、部署の人間が集まって、中をのぞいている。デスクに積み上げられた書類も、大事な画面を開きっぱなしのパソコンも、放置されたままだ。
なにごとかと首をかしげる。人だかりの中で、同期の女性が振り返った。ゆきの顔を見たとたん、この世の終わりのような表情を浮かべる。必死な形相でゆきに走り寄った。
「小森! すぐに来て!あんたの記事で大変なことになってるの! 」
「え……? 」
同期に腕を引っ張られ、集まりの中に入る。前に出て会議室をのぞくと、まっさきに編集長の姿が目に入った。
こちら側に尻を向け、床に頭をこすりつけている。土下座したまま、ピクリとも動かない。一体いつからその姿勢でいるのだろう。
編集長が土下座をするその先に、優雅に足を組んでイスに座る、哲がいた。感情も何もない目で、土下座する編集長を見おろしている。
「どういうこと……? 」
わけもわからず困惑するゆきに、同期が言った。
「三美神が直接出版社に乗り込むなんて、異常事態よ。三美神関連の記事に問題があったからに決まってるじゃない」
「ええ……?」
そのとき、会議室にいる哲と、ばっちり目が合った。あのときデジカメ越しで見たのと同じ、射貫くような目だ。
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