49人が本棚に入れています
本棚に追加
皐月の態度に、和也は軽くため息をついた。
「僕も皐月の好きにしたらいいと思ってる。でも兄さんが……」
その瞬間、皐月の眉がぴくりと動く。
「今まで使う必要がなかったとしても、これからはあるだろうからって。それに僕もね、自分の身を守れたはずの状況で、皐月が死んでしまうなんてことは嫌だから」
皐月は不満をありありと感じさせる目つきで、和也を見つめる。
和也にとって、哲の言うことは絶対だ。その従順さは皐月が幼い頃から嫌に思うほどだった。
「……わかった。もっとく」
哲の言うことに忠実な父親も、なんだかんだで同じように従っている自分も腹立たしい。
とりあえず、目の前にある銃を持ちあげる。見た目に反してずっしりと重かったが、皐月の手に恐ろしいほどすんなりとなじんだ。
皐月は銃の安全装置を確認した後、銃をリュックに入れる。
「ちょっと。暴発したらどうするの」
皐月なりに位置や安全性を考えて入れたのだが、和也にはそれが雑に入れたように見えたらしい。
「もうちょっと丁寧に扱いなよ。人を簡単に殺せる道具なんだよ? それにリュックに入れてどうするの? 緊急時にわざわざリュックから出すの? 」
めんどくさい。ただでさえリボルバーを持ち歩くことすら消極的だというのに、口やかましく言われるのはかなり不快だ。
「じゃあこのまま手に持って出歩けって? 」
「そうじゃなくて、ホルスターがあるでしょ。持ってないなら買ってあげるから」
ホルスターまでして持ち歩くのは目立ってしょうがない。皐月は首を振る。
「やめてよ。いいって。あくまでも護身用でしょ? 」
皐月は眉をひそめて、リュックのファスナーを閉めた。立ち上がって、リュックを背負う。
和也は顔をゆがめて、皐月を見上げた。
「リボルバーくらいはホルスターで身に付けててよ。いざという時になかなか取り出せないものなんだよ?それに皐月って銃の扱いそこまで上手じゃ」
「あーもういいって! 大丈夫だから! じゃあね」
こんな白だらけの応接間では、不快さに拍車がかかる。皐月は大きくため息をついて、和也の言葉も聞かずに応接間を出ていった。
「もー……皐月……」
不満げな和也のつぶやきが、応接間に響いた。和也はソファの背もたれにゆっくりと体を沈める。複雑な感情が入り混じる表情を浮かべ、虚空を見つめていた。
最初のコメントを投稿しよう!