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皐月が和也からリボルバーを渡されて、数日たった。今のところ皐月が銃を使う機会はない。ありきたりで平和な大学生活が続いている。
一体いつまでもっておけばいいのだろう。早く手放したくて仕方がない。銃を持っているだけで、まるで犯罪者になったかのような気分になる。実際、普通の人間が銃を持つのは犯罪になるので、それはそれで普通の反応なのだが。
いつものとおり授業を受け、昼休み。皐月は食堂で定食を食べる。今日は南蛮定食だ。銃の入ったリュックは、隣の椅子に置いていた。
昼休み真っただ中の食堂は、人でごった返し、空いているテーブルは見当たらない。二限目が早く終わった皐月は、一人で一つのテーブルを占領していた。はたから見れば、ただの友達がいない人で、空気の読めない人でしかない。
黙々と食べていると、甲高く間延びした女性の声が耳に届いた。
「あ、百合園~!」
声がしたほうに顔を向けると、食券売り場のそばで、かわいらしい顔立ちの女子大生が手を振っていた。
「一人で食べてるの~? うちらもそっち行くねぇ」
染めたての茶色い巻き毛に、くりくりとした瞳。女性らしいふわふわとしたワンピースが良く似合っている。坂本千恵美はいかにも男受けするような女子大生だった。
皐月は千恵美をじっと見つめたあと、にっこりと笑って手を振り返す。坂本の後ろにいる取り巻きたちの姿に、勘弁してくれ、と心の中で呆れながら。
しばらくすると、皐月と同じ定食セットを運ぶ坂本が、複数の男女を引き連れてやってくる。おしゃれで身奇麗で少し派手で、今時の明るい若者たちだ。
皐月の了承を得ることなく、同じテーブルにそれぞれが好きなように座る。坂本は皐月の隣に定食を置いた。イスに置かれたリュックに気付き、皐月を見る。
(……わざわざ隣に来なくてもいいのに)
そう思いながらも、皐月はリュックを自分の足元に置く。坂本は上機嫌な笑みを浮かべて、イスに腰をおろした。
家から持ってきたお弁当や、食堂で注文した定食、売店で買ったパンで、テーブルがにぎやかになる。
「三限、外国語だよ~?だるくない?」
「あの先生好きじゃないんだよね~。厳しいし」
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