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皐月の周りは、ぺちゃくちゃと騒がしくなる。この場の空気を損なわないように、皐月は薄く笑いを浮かべていた。話を振られたら答えるし、振られなければあえて話に入っていったりしない。
定食を食べる茶髪の男子学生が、自嘲気味に笑いながら口を開く。
「百合園はいいよなー。専門職専攻だろ? エリートじゃん。頭良くてうらやましー」
「……そんなことないよ」
皐月と彼らの学部は一緒でも、専攻は違っていた。一年次は基礎や導入にあたる科目がほとんどで、他の専攻の学生と被る講義が多い。皐月はなぜか違う専攻の坂本に、ことあるごとに声をかけられていた。
他の男子学生であれば、自分に気があるのではないかとまいあがるかもしれない。現に、取り巻きの男子たちは少なからず坂本に好意があるようで、隣に座っている皐月に微妙な視線を送ってくる。
しかし、皐月にとって坂本は少々苦手なタイプだ。ふわふわとした雰囲気や犬のようなかわいらしい見た目が好きではない。皐月の隣に座って、皐月と同じものを食べているようすも、どこかイライラする。
「ねぇねぇ百合園」
坂本は上手に化粧したかわいらしい顔を、皐月に向けてきた。
「外国語の課題やってきた? わからないところがあってさ~。交通事故について書かれているのはわかるんだけど、そのあとの専門用語を使った説明文が読みとけなくて……」
それに対して皐月ではなく、坂本の隣に座っていた他の男子が反応する。
「坂本って外国語苦手だよな。英語でのスピーチもたどたどしかったし」
「……そうなの。試験も英語が一番悪くてさ~」
一瞬、間が開く言い方だったが、きゃっきゃと笑っている。
坂本は再び、皐月に顔を向けた。
「百合園は課題全部読めた? 」
「うん……一応は」
皐月は食事を進めながら答える。心なしか、箸を動かす手は機敏だ。
「やっぱりねー。百合園は英語でのディベートも簡単にこなせるくらい優秀だからなぁ。当然かぁ」
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